皆さんは、日々当たり前にコンビニやスーパーで見かける商品が、ある日突然、在庫切れになったらどう感じるでしょうか?
2025年秋、私たち情シス担当者が最も恐れる事態が、国内最大手の食品グループであるアサヒグループホールディングスを襲いました。これは単なる「PCの故障」や「インターネットの不調」ではありません。これは、会社の生命線が断ち切られるほどの、深刻なサイバー犯罪でした。
このアサヒグループの事例は、私たち情シス部門に重い問いを突きつけています。
「私たちがあの攻撃を受けたら、会社を守り切れるのか?」
そして、「もし、システムが自社のサーバーではなく、Google Workspace(GWS)などのクラウドにあったなら、結果は違ったのか?」という問いです。
答えはシンプルではありませんが、私たち情シス担当者がクラウド移行を急ぐ決定的な理由が、このランサムウェア攻撃の事例に凝縮されています。
1. 侵入経路:「古い鍵穴」を放置しないために

アサヒグループへの攻撃では、外部からアクセスするためのVPN機器など、「古い鍵穴」が侵入経路になったとされています。これは、機器のパッチ適用(修正プログラムの更新)が遅れたことが原因の一つです。
情シス担当として告白しますが、自社でサーバーやネットワーク機器を持つオンプレミス環境(自社サーバー)では、この「パッチ当て」は重労働です。週末や深夜に、一つ一つ手作業でアップデートしなければならない状況が多々あります。そこに漏れが生じると、サイバー犯罪者にそこを突かれてしまいます。
☁️ クラウドの盾:Googleが24時間、鍵を交換する
GWSやGoogle Cloudの場合、インフラストラクチャ(基盤となるサーバー、ネットワーク、OSなど)のセキュリティは、全てGoogle側の責任です。
これは、あなたが「家の鍵の交換を、24時間プロの警備員に任せられる」ようなものです。最新の脅威に対し、AIや専門チームが即座に対応し、パッチを適用し続けます。これにより、「古い鍵穴の放置」という初歩的な侵入経路がほとんどなくなります。
2. 横展開:「一つのミス」で全てが止まる恐怖

従来のオンプレミス環境では、一度社内ネットワークに侵入されると、サーバーからサーバーへ、システムからシステムへとウイルスが「横展開」しやすい傾向がありました。アサヒグループの事例でも、システム全体が停止する事態に発展しました。
☁️ クラウドの盾:ゼロトラストと多重の認証
GWS環境は、基本的に「ゼロトラスト(何も信用しない)」という設計思想で動いています。
- 多要素認証(2段階認証)の強制: パスワードが漏れても、スマートフォンでの認証がなければログインできません。
- 不審なアクセスをAIが検知: 「普段アクセスしない国からのログイン」「急な大量データのダウンロード」など、AIが異変を検知した瞬間に、アクセスを強制的に遮断します。
つまり、社員の一人がフィッシング詐欺でパスワードを盗まれても、システム全体に被害が広がるのを強力に食い止められる仕組みが標準で備わっているのです。
3. 復旧の遅れ:「事業停止」を最短で食い止めるために

最も深刻だったのは、システムの復旧に時間を要し、結果として数週間にわたって受注・出荷が止まったことです。これは、バックアップからの復元作業が複雑で時間がかかったことを示しています。
☁️ クラウドの盾:確実なバックアップと高速復元
GWSのGoogleドライブやメールのデータは、常に複数箇所にバックアップされています。さらに、AIがランサムウェアによる「異常なデータ暗号化」を検知した瞬間、自動的に同期を停止します。
万が一感染した場合でも、情シスは「一括復元ツール」を使い、感染前の状態にデータを瞬時に巻き戻すことが可能です。これは、オンプレミス環境で物理的なサーバーを再構築する手間と比べると、雲泥の差であり、事業継続の観点から最大のメリットです。
結びに:クラウドは「魔法の箱」ではない

もちろん、クラウドに移行しても万能ではありません。Googleがインフラを守っても、「誰にアクセス権限を与えるか」「社員のセキュリティ教育を徹底するか」は、依然として私たち情シスの、そして全社員の責任です。
しかし、アサヒグループの事例が示したように、ランサムウェア攻撃は「会社を止める」現実的な脅威です。
私たち情シス担当者がGWSやクラウドサービスを強く推進するのは、決して流行に乗っているからではありません。それは、「二度とスーパードライが店頭から消えるような事態を起こさない」ために、「最も強固で確実な防御の土台」を会社に提供するためなのです。